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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)11590号 判決

大阪市北区西天満二丁目四番四号

原告

積水樹脂株式会社

右代表者代表取締役

増田保男

右訴訟代理人弁護士

俵正市

寺内則雄

右輔佐人弁理士

大西浩

東京都中央区東日本橋一丁目六番一〇号

被告

ソーコー株式会社

右代表者代表取締役

牧功

右訴訟代理人弁護士

森田政明

右輔佐人弁理士

山田正國

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は、別紙イ号物件目録(一)及びロ号物件目録(一)記載の各物干し器を製造し、輸入し、販売してはならない。

二  被告は、その所有に係る前項記載の各物干し器を廃棄せよ。

三  被告は原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成六年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  仮執行の宣言

第二  事案の概要

本件は、後記意匠権について専用実施権を有する原告が、被告の製造、販売する二種類の物干し器の意匠は右意匠権に係る登録意匠に類似すると主張して、その製造、輸入、販売の差止め及び廃棄を求めるとともに、被告による右専用実施権侵害行為により被った損害の賠償として金一〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年一二月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

一  原告が専用実施権を有する意匠権

1  原告は、左記の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件登録意匠」という)について専用実施権を有している(争いがない)。

登録番号 第七三三五一八号

意匠に係る物品 物干し器

出願日 昭和六〇年三月一二日(意願昭六〇-九九一九)

登録日 昭和六三年二月九日

登録意匠 末尾添付の意匠公報記載のとおり

意匠権者 訴外株式会社久宝プラスチツク製作所(以下「訴外会社」という)

2  本件意匠権には、次の(一)及び(二)の類似意匠の意匠権が合体している(甲一三、一八ないし二一。これらの登録意匠を以下、順に「本件類似意匠一」、「本件類似意匠二」という)。

(一) 登録番号 第七三三五一八号の類似一

意匠に係る物品 物干し器具

出願日 昭和六一年一二月八日(意願昭六一-四八八一二)

登録日 昭和六三年一一月一五日

登録意匠 末尾添付の意匠公報記載のとおり

(二) 意匠に係る物品 物干し器

出願日 平成六年九月二〇日(意願平六-二八七二一)

意匠登録査定日 平成八年三月一五日

(その後意匠登録を受けたものと推認される)

登録意匠 末尾添付の類似意匠登録願添付の図面記載のとおり

二  被告の製造、販売する物干し器

被告の製造、販売している二種類の物干し器(現物)が検甲第三号証、検甲第四号証のものであることは、上段物干し杆にピンチが吊り下げられている状態のものであるか否かの点を除き(原告は、上段物干し杆にピンチが吊り下げられている検甲第三号証、検甲第四号証の状態のものそのものを主張するのに対し、被告は、検甲第三号証、検甲第四号証のものからいずれも上段物干し杆に吊り下げられたピンチを除いた状態のものを主張する)、当事者間に争いがない(以下「イ号物件」、「ロ号物件」といい、その意匠を「イ号意匠」、「ロ号意匠」という)。

イ号物件、ロ号物件(以下、合わせて「被告物件」という)の特定について、右争いに対応して、原告は、別紙イ号物件目録(一)、ロ号物件目録(一)記載のとおりであると主張し、被告は、別紙イ号物件目録(二)、ロ号物件目録(二)記載のとおりであると主張する。上段物干し杆にピンチが吊り下げられているか否かの点を除いては、イ号物件目録(一)、ロ号物件目録(一)添付の各図面(イ号図面(一)、ロ号図面(一))と、イ号物件目録(二)、ロ号物件目録(二)添付の各図面(イ号図面(二)、ロ号図面(二))とは実質的に同一であると認められるが、イ号図面(一)、ロ号図面(一)の方がより正確であるので、イ号図面(一)、ロ号図面(一)及びイ号物件目録(二)、ロ号物件目録(二)添付の各写真のとおり特定するのが相当と認められる(但し、ロ号図面(一)では下段物干し杆の本数が二〇本であるように描かれているが、正しくはその「下段物干し杆部写真」のとおり二四本である)。

被告物件が上段物干し杆にピンチが吊り下げられている状態のものであるか否かについては、後記第四の二2において被告物件の意匠(以下「被告意匠」という)と本件登録意匠との対比に際し判断する。

三  争点

1  被告意匠は、本件登録意匠に類似するものであるか。

(一) 本件登録意匠の要部

(二) 被告意匠と本件登録意匠との対比

2  被告に損害賠償義務があるとした場合に、原告に対し賠償すべき損害の額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(被告意匠は、本件登録意匠に類似するものであるか)について

【原告の主張】

1 本件登録意匠の要部

(一) 本件登録意匠は、公知意匠及び本件類似意匠一及び二に照らし、次の(1)ないし(5)の各構成要素を有機的に結合した全体を意匠の要部とするものであり、これが本件登録意匠の特徴として看者(取引者、需要者)に強い印象を与えるところである。

(1) 支柱を細長いパイプとしたこと、

(2) 支柱上部の上段物干し杆は、細長い角棒状で、先端寄りと内方の上位集束盤寄りに孔を穿って、各孔にピンチ(洗濯バサミ)を一個ずつ吊り下げ、支柱上部に設けた上位集束盤を介して、先端側をほんの少し上げて放射状に一二本取り付けられていること、

(3) 支柱中央の下段物干し杆は、細長い角棒状で、その先端に「つ」の字形クリップが形成されて洗濯物を挾持するようにし、支柱に設けた下位集束盤を介して、先端側をほんの少し上げて放射状に一二本取り付けられていること、

(4) 支柱上部に設けた下位集束盤の上端中央には、やや足の長い疑問符「?」状のフックが載置され、物干し器の先端部を形成していること、

(5) 全体の高さの下方寄り(略七分の一弱)の部位から、ステー四本を四方へ等間隔に開脚して、床に設置できるようにしたものであって、各ステーの上部は、支柱の下端に周設した接続具に挾持されていること。

中でも、上下二段式のスタンド式物干し器において頂部に吊下げ用フックが設けられた上段物干し杆は、従来全く見当たらなかったものであって、上段物干し杆及び下段物干し杆(又は上段物干し杆のみ)を支柱の一部から取り外して吊下げ用フックを物干し竿等に吊り下げることにより屋外でも使用できるという画期的なもので、独創的な機能美を有するものであり、この点が本件登録意匠において看者の注意を特に強く惹くところである。

登録意匠の要部とは、その出願前の公知意匠と比較して真に創作された新規な形態の存する部分であって、かつ登録意匠に係る物品の形態的特徴が最も発揮される部分すなわち物品の見やすい部分ないし見る者の注意を強く惹く部分であるが、意匠の類否判断においては、被告主張のように公知意匠を基礎にして創作の程度の高低(のみ)によって類否を定めることは全体観察を無視するものであり、個々の要素に必ずしもとらわれることなく、個々の要素を総合して全体として判断されるべきである。

(二) 被告は、支柱に対し放射状に広がる上下二段の物干し杆からなるスタンド式の物干し器の形状は、本件登録意匠の出願前に公知であり、本件登録意匠の要部は極めて限定された細部の形状でしかない旨主張するが、その理由とするところは、以下のとおりいずれも失当である。

(1) 昭和四〇年七月二一日特許庁資料館受入れの同庁意匠課公知資料番号第四四〇九一一八号外国カタログ「MANUFARANCE」五二八頁所載の図面(乙二)、昭和五一年九月七日に出願され、昭和五四年一月三〇日に意匠登録を受けた第五〇〇八六二号意匠(乙三の1)・昭和五七年六月一八日に意匠登録を受けた右登録意匠を本意匠とする類似一の意匠(乙三の2)・平成元年四月二五日に意匠登録を受けた同類似二の意匠(乙三の3。但し、これは本件登録意匠の出願後に公知になったものである)、昭和五二年一二月六日に出願公開された実開昭五二-一六〇五三九号公開実用新案公報(乙四)・昭和五四年一月二九日に出願公開された実開昭五四-一三四二六号公開実用新案公報(乙五)・昭和三四年一一月一〇日に出願公告された実公昭三四-一八〇六二号実用新案公報(乙六)・昭和五一年一二月一五日に出願公告された実公昭五一-五二五二〇号実用新案公報(乙七)・昭和五五年五月一五日に出願公告された実公昭五五-二〇三一二号実用新案公報(乙八)・昭和五六年一〇月九日に出願公告された実公昭五六-四三二七六号実用新案公報(乙九)の各実施例の図面に係る各物干し器は、いずれも支柱に対し放射状に広がる上下二段の物干し杆からなるスタンド式物干し器ではあるが、そのいずれもが、〈1〉支柱の頂部に吊下げ用のフックが設けられておらず、〈2〉上段物干し杆に複数の孔が穿設されておらず(前記のとおり本件登録意匠の出願後に公知になった乙第三号証の3のものを除く)、また複数のピンチが吊り下げられておらず、〈3〉下段物干し杆の先端に「つ」の字形クリップが形成されていないから、本件登録意匠の要部を備えておらず、本件登録意匠とは全く異なるものである。

また、昭和五六年三月二日に出願公開された実開昭五六-二三〇九七号公開実用新案公報(乙一九)、昭和五七年七月二〇日に出願公告された実公昭五七-三二八六五号実用新案公報(乙二〇)及び実公昭五七-三二八六六号実用新案公報(乙二一)記載の各物干し器には、支柱頂部に吊下げ用フックが設けられていないから、これらの存在によっては何ら本件登録意匠の新規性が減殺されるものではない。

(2) 被告は、昭和五四年八月六日出願・昭和六二年九月一〇日登録の第七二三二九三号意匠(乙一〇の1)についての審判における審判請求理由補充書(乙一二)及びその類似意匠である昭和五五年一月三一日出願・昭和六三年一月一一日登録の類似一の意匠(乙一〇の2)についての拒絶理由通知(乙一二)に対する意見書(乙一四)において、出願人たる訴外会社は、拒絶の理由とされた引例意匠との極めて細部の部分的形状における差異を強調して両者が類似しない旨主張したと指摘する。しかし、登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添付した図面等により現わされた意匠に基づいて定められるものであり(意匠法二四条)、その要部ないし特徴は、出願人が出願過程においてどのように説明したかによって定まるものではなく、右願書の記載、図面等の資料を基礎として客観的に定められるべきものであるから、出願過程における出願人の主張に基づき、本件登録意匠と事案を異にする乙第一〇号証の1・2の各意匠との対比をしても、あまり意味はない。

あえて対比しても、本件登録意匠は、基本構成上は乙第一〇号証の2の意匠の支柱頂部に吊下げ用フックを設けたものであって、機能上の特徴としては、前記のとおり上段物干し杆及び下段物干し杆(又は上段物干し杆のみ)を支柱の一部から取り外すことにより吊下げ用フックを物干し竿等に吊り下げて屋外でも使用することができるものであるが(本件登録意匠がこのような機能を有することは、支柱頂部に吊下げ用フックが設けられていること自体や本件意匠公報のA-A線端面図、本件類似意匠一の意匠公報の「説明」の記載及び使用状態を示す参考図から明らかである)、乙第一〇号証の1・2等の意匠に係る従来の物干し器が屋外で物干し竿等を利用して洗濯物を干すことができなかったことを考えると、これを可能にした本件登録意匠は正に画期的なものであり、乙第一〇号証の2の優美で軽快な意匠を発展させて、これと全く異なった独創的な機能美を有する意匠となったのである。したがって、本件登録意匠は、支柱頂部に吊下げ用フックを設けた点に特徴があるというべきであって、このことにより乙第一〇号証の1の意匠とは非類似の新規性のある意匠として登録されたものである。

被告は、仮に右原告の主張のとおりであるとすれば本件登録意匠は吊り下げた場合の上段物干し杆と下段物干し杆(又は上段物干し杆のみ)の形態だけが新規となるにすぎない旨主張するが、これは、意匠において最も重要な全体観察を無視し、部分観察を強調するものであって、到底首肯できない。本件登録意匠は、二段式のスタンド式物干し器にして支柱頂部に吊下げ用フックが設けられているところに大きな特徴があるのであって、被告が公知意匠として援用する乙第三六ないし第四〇号証、第四一号証の1~5、第四二ないし第四五号証のものは、いずれもスタンド式ではない単なる小物干し杆にすぎない。

また、被告は、本件登録意匠の上段物干し杆に穿設された各二個の小孔は、ピンチ吊下げ用孔にすぎず、ハンガー掛用孔ではないと主張するが、本件登録意匠の願書(甲一一)添付の正面図によれば、上段物干し杆の幅は二・四mmで、孔の径が一・○mmであって、孔の径は上段物干し杆の幅に対して四一・七%を占めており、被告意匠の上段物干し杆の幅は三〇・五mmで、孔の長径が一五・○mm、短径が一〇・○mmであって、物干し杆の幅に対して長径は四九・二%、短径は三二・八%で、平均四一・○%を占めており、本件登録意匠とほぼ同一である(甲一四)から、本件登録意匠の上段物干し杆に穿設された孔は、ピンチ吊下げ用の小孔というようなものではなく、ハンガー掛用孔として使用できる径を有するものである。

被告は、上段物干し杆及び下段物干し杆が上向き放射状とされ花弁が広がっているような形状も本件登録意匠の重要な要素である旨主張するが、物干し杆の微細な傾斜が意匠の要部となりえないことは、上段物干し杆及び下段物干し杆が水平に延伸された形態の本意匠(乙三の1)に対して、これらが上方に緩やかに傾斜した形態の意匠(乙三の2)が類似意匠の意匠登録を受けていることから明らかである。

(3) 被告援用の以下の意匠は、いずれも本件登録意匠の出願後に出願又は登録されたものであって、本件登録意匠の出願前公知の意匠ではなく、また、本件登録意匠の要部を認定する上で参考となるものでもない。

昭和六一年五月九日出願・昭和六三年一一月一五日登録の第七五五八九一号意匠(乙一五の1)、右同日出願・同日登録の同号の類似一の意匠(乙一五の2)、昭和六一年五月二三日出願・昭和六三年一一月一五日登録の同号の類似二の意匠(乙一五の3)に係る物干し器は、いずれもステー又は下位集束盤の上部にピンチ皿が設けられたものであり、全体としての審美感が認められて乙第一〇号証の2の登録意匠とは非類似の意匠であるとして登録されたものである。

昭和六〇年二月一二日出願・平成元年七月二六日登録の第七七三九三六号意匠(乙一六の1)、昭和六一年一二月二四日出願・平成元年七月二六日登録の同号の類似一の意匠(乙一六の2)、昭和六〇年七月二二日出願・平成元年九月一三日登録の同号の類似二の意匠(乙一六の3)は、いずれも下段物干し杆の先端が「コ」の字形の鉤止部とされており、全体として別異の意匠として登録されたものである。

昭和六二年一〇月六日出願・平成元年七月二六日登録の第七七四四一九号意匠(乙四七)は、上段物干し杆が二本左右に延びているだけで、三、四本以上の多数本が全方位に広がったというものではない。

平成五年一一月一八日出願・平成七年九月二二日登録の第九四〇八二三号意匠(乙四八)は、本件登録意匠と対比すれば、頂部の吊下げ用フックの形態の差異とスタンドに靴干し用のH形フックが上向きに突設された形態は、決して小さな差異ではなく、特に吊下げ用フックが支柱頂部より二方向上向きに伸び出していることにより支柱との一体感に乏しく、全体として別異の印象を看者に与えるものである。

2 被告意匠と本件登録意匠との対比

(一) イ号意匠は、次の(1)ないし(5)の構成からなる物干し器の形状である。

(1) 垂直に立設された細長いパイプの支柱と、

(2) 支柱の上端に設けられた上段の円形集束盤から上段物干し杆が放射状に四本設けられ、各上段物干し杆には六個の孔が穿設されるとともに、六個の舌状のピンチ掛け用フックが形成されピンチが吊り下げられ、角状突起が形成された上段の物干し器と、

(3) 支柱の中間に設けられた下段の円形集束盤から下段物干し杆が放射状に二〇本設けられ、各下段物干し杆先端と基端にそれぞれ「つ」の字形クリップが形成され、更に先端部底面から外方へ「し」の字状のツメが形成された下段の物干し器と、

(4) 支柱の頂部に設けられた吊下げ用の疑問符状のフックと、

(5) 支柱の下端に取り付けられ、放射状の脚柱を三本設けたスタンド。

(二) ロ号意匠は、次の(1)ないし(5)の構成からなる物干し器の形状である。

(1) 垂直に立設された細長いパイプの支柱と、

(2) 支柱の上端に設けられた上段の円形集束盤から上段物干し杆が放射状に四本設けられ、各上段物干し杆には六個の孔が穿設されるとともに、六個の舌状のピンチ掛け用フックが形成されピンチが吊り下げられ、角状突起が形成された上段の物干し器と、

(3) 支柱の中間に設けられた下段の円形集束盤から下段物干し杆が放射状に二〇本設けられ、各下段物干し杆先端と基端にそれぞれ「つ」の字形クリップが形成され、更に先端部底面から外方へ「し」の字状のツメが形成された下段の物干し器と、

(4) 支柱の頂部に設けられた吊下げ用の疑問符状のフックと、

(5) 支柱の下端に取り付けられ、放射状の脚柱を三本設けるとともに各脚柱に連結杆が取り付けられたスタンド。

(三) 被告意匠は、次の〈1〉ないし〈3〉の点で本件登録意匠と一致又は共通するところ、これらは目立つ部分であって看者の注意を強く惹くところである。

〈1〉 支柱を細長いパイプとしたこと、

〈2〉 支柱上部に吊下げ用の疑問符状のフックが載置されていること、

〈3〉 支柱下方に、放射状の脚部を設け、脚部の全体に占める割合がほぼ同一であること。

被告意匠と本件登録意匠との相違点は、次の(1)及び(2)のとおりであるが、いずれも部分的差異にすぎず、看者に目立った特段の印象を与えるものではない。

(1) 上段の物干し器において、

〈1〉 物干し杆の本数が、本件登録意匠では一二本であるのに対し、被告意匠では四本であること、

〈2〉 被告意匠では、物干し杆に各六個の舌状のピンチ掛け用フックが形成されていること、

〈3〉 ピンチの吊下げの有無、

〈4〉 角状突起の形成の有無

が相違点として挙げられる。

〈1〉 の物干し杆の本数の差異の点については、上段物干し杆が三本である第七二三二九三号本意匠(乙一〇の1)に対して上段物干し杆が一二本である意匠(乙一〇の2)がその類似意匠として意匠登録を受けているし、上段物干し杆が四本である本件類似意匠二が本件登録意匠を本意匠として類似意匠の意匠登録を受けている。

〈2〉 の舌状のピンチ掛け用フックの形成の有無の点については、物干し杆の下部に舌状のピンチ掛け用フックが形成されている本件類似意匠二が本件登録意匠を本意匠として類似意匠の意匠登録を受けている。

〈3〉 のピンチの吊下げの有無の点については、被告物件には舌状のピンチ掛け用フックの数に対応して二四個のピンチが同梱されており(甲三、四、検甲一の1・2、二)、被告物件のカタログ、(甲六)にも上段物干し杆にピンチが吊り下げられた使用状態を示す写真が掲載されているから、被告物件も上段物干し杆にピンチを吊り下げて使用されることは疑いの余地がない。このピンチが上段物干し杆と下段物干し杆とに分けて使用されるという選択性があるとしても、取り付けられた状態を想定すれば、本件登録意匠との問で差異はなく、看者に与える印象は同一であるといわざるをえない。加えて、上段物干し杆にピンチが吊り下げられていない第七二三二九三号本意匠(乙一〇の1)に対してピンチが吊り下げられている意匠(乙一〇の2)がその類似意匠として意匠登録を受けているという審査実務の例では、ピンチ吊下げの有無は意匠の類否判断に影響を及ぼすものとはされていない。

〈4〉 の角状突起の形成の有無の点については、単に付け足し程度の部分的な差異であり、意匠の類否判断に影響を及ぼすようなものではない。

(2) 下段の物干し器において、

〈1〉 物干し杆のわずかな傾斜の差異、

〈2〉 物干し杆の本数が、本件登録意匠では一二本であるのに対し、被告意匠では二〇本であること、

〈3〉 被告意匠では、物干し杆の基端集束盤に「つ」の字形クリップが形成されていること、

〈4〉 被告意匠では、物干し杆の先端部底面から外方へ「し」の字状のツメが形成されていること

が相違点として挙げられる。

〈1〉 の物干し杆のわずかな傾斜の差異が意匠の類否判断を左右しないことは、乙第三号証の1・2における本意匠とその類似意匠との関係、本件登録意匠と本件類似意匠二(物干し杆が水平に延伸している)との関係からして明らかである。

〈2〉 の物干し杆の本数の差異については、下段物干し杆が二〇本である本件類似意匠二が本件登録意匠を本意匠として類似意匠の意匠登録を受けている。

被告意匠における〈3〉及び〈4〉の点は、いずれも部分的な差異であり、意匠の類否判断に影響を及ぼすようなものではない。

以上のとおり、被告意匠と本件登録意匠との共通点及び相違点を総合して、両意匠を観察すると、相違点として挙げられる点は、本件類似意匠二に現われているか、意匠の類否判断に影響を及ぼさない程度の部分的差異にすぎないから、両意匠は、全体として看者に似かよった印象を与える類似の意匠というべきである。

(四) 被告は、何よりもまず、被告意匠は上段物干し杆が四本で直角交差状に配設されているのに対し、下段物干し杆は二〇本(イ号意匠)又は二四本(ロ号意匠)もの物干し杆が放射状に配設されているため、本件登録意匠・のように上下二段の各物干し杆の配設に上下の統一性や規則性がない旨主張するが、上下二段の各物干し杆の数に違いがあるからといって、上下二段の各物干し杆の配設に上下の統一性や規則性がないとすることは短絡的にすぎる上、非類似といえないことは、乙第一六号証の1の意匠では上段物干し杆は一二本、下段物干し杆は二四本であるのに対し、その類似意匠として登録された乙第一六号証の2の意匠では上段物干し杆は四本で直角交差状に配設されており、下段物干し杆は二四本であることから明らかである。また、被告は、被告意匠は下段物干し杆も取付盤(下位集束盤)から水平に延伸している旨主張するが、前記(三)(2)のとおり物干し杆のわずかな傾斜の差異は意匠の類否判断を左右しない上、被告物件の下段物干し杆は、傾斜角度の実測値によればイ号物件で二度二二分、ロ号物件で二度二五分の角度で上方へ傾斜している(甲一五)から、本件登録意匠と同じ印象を与えるものである。

被告が被告意匠はその他の美的形態においても本件登録意匠と異なると主張するところも、以下のとおり失当である。

(1) 被告は、被告意匠は、本件登録意匠とは異なり、上段物干し杆にそれぞれ六個の縦長の楕円形状のハンガー掛用孔と下縁に扁平釣針状のフックが設けられている旨主張するが、かかる形態は甲第九号証の考案の借用であるのみならず、ハンガー掛用孔二四個と扁平釣針状のフック二四個とを合計すると、実に四八個もの洗濯物の掛け部が存在することになるので、洗濯物が干渉し合い効率的な乾燥機能を果たしえないことになり、しかも、包装箱にはハンガーは一本もセットされていないから、二四個ものハンガー掛用孔は本件意匠権の侵害を免れようとして数をやたら増加させたものであるとしか考えられない。

(2) 被告は、本件登録意匠は、被告意匠とは異なり、全体的イメージとして二段重ねの傘の骨を逆さに開いたような観を呈し、全体的に長身な感じを与える旨主張するが、本件登録意匠の構成部分の一部との関連を指摘するものにすぎず、上段物干し杆に二四個ものピンチが吊り下げられていることや、上下二段の物干し杆と逆向きのステーを設けたスタンド式であることからすれば、全体的イメージとして傘の骨を逆さに開いたような観を呈しているとはいい難く、本件類似意匠一(甲一三)に照らしても全体的に長身な感じを与えるものでもない。

(3) 被告ば、被告意匠では下段物干し杆の両端がクリップ状となっており、しかも最先端にピンチを掛けるための上向きのツメがあることに独自の創作性がある旨主張するが、下段物干し杆の両端をクリップ状にしたことはまさに甲第九号証の考案及び甲第一二号証の物件(セキスイものほしスタンド「コスモス」)の借用であるし、最先端に設けられた上向きのツメの機能は物干し杆端部の「つ」の字形クリップでも果たしうるもので、甲第一二号証の物件の上段物干し杆の最先端に設けられた上向きのツメと軌を一にし、その配置の仕方も共通しているから、これは本件意匠権の侵害を免れる目的で作出したものであることは明らかであり、それ自体特段目立つものではなく、部分的な微差にすぎない。

(五) 本件類似意匠二は、主として、上段物干し杆が四本で、いずれも水平に延伸されていること、上段物干し杆にそれぞれ三個の釣針状フックが垂下されていること、下段物干し杆が二〇本で、いずれも水平に延伸されていること、の各点で差異があるものの、本件登録意匠と類似するものとして登録されたものであり、これにより、たとえ右のような差異があっても本件登録意匠の類似範囲内であることが明らかである。

したがって、被告が【被告の主張】2の(三)及び(四)において被告意匠は本件登録意匠に類似しない理由として主張するところは、いずれも失当である。

【被告の主張】

1 本件登録意匠の要部

(一) 意匠は物品の美的形態であって、その類否判断においては、その意匠の属する分野の公知意匠を基礎にし、創作の程度の高低によって類否を定めるものであり、公知意匠に比して創作の程度の低いものは、その公知意匠に類似する意匠とされる。したがって、本件における意匠の類否判断に当たっては、まず、本件登録意匠と公知意匠との美的形態を具体的に対比しながら、本件登録意匠の要部を具体的に検討しなければならない。

本件登録意匠の基本的構成は、支柱に対し放射状に広がる上下二段の物干し杆からなるスタンド式の物干し器というものであるが、本件登録意匠の出願前公知の意匠、訴外会社が本件登録意匠の出願前に出願した意匠の審査・審判の過程における訴外会社の主張、本件意匠権を有する訴外会社自身、基本的構成を共通にする他の意匠について非類似意匠として自ら意匠登録を受けていること、及び特許庁におけるこれらの各意匠に関する類否判断に照らすと、本件登録意匠の基本的構成自体は公知であり、本件登録意匠の要部は極めて限定された細部の形状でしかないことは明らかである。

(1) 昭和四〇年七月二一日特許庁資料館受入れの同庁意匠課公知資料番号第四四〇九一一八号外国カタログ「MANUFARANCE」五二八頁所載の図面(乙二)には、支柱に対し放射状に広がる上下二段の物干し杆からなるスタンド式の物干し器が図示されている。

昭和五一年九月七日出願・昭和五四年一月三〇日登録の第五〇〇八六二号意匠(乙三の1)及び昭和五七年六月一八日登録のその類似一の意匠(乙三の2)、平成元年四月二五日登録のその類似二の意匠(乙三の3)の基本構成も、上下二段の物干し杆からなるスタンド式物干し器というものであるが、上段と下段とで物干し杆の本数や形態、支柱に対する広がりなどに差異のあることが特徴的である。

乙第四ないし第九号証(いずれも本件登録意匠の出願前に公知となった公開実用新案公報又は実用新案公報)には、支柱に対し放射状に広がる上下二段の物干し杆からなるスタンド式の物干し器が各実施例の図面に示されている。

(2) 本件意匠権の意匠権者である訴外会社は、本件登録意匠の出願に先立つ昭和五四年八月六日に意願昭五四-三二九七九号意匠(乙一〇の1)を、昭和五五年一月三一日に意願昭五五-三〇一七号意匠(乙一〇の2)をそれぞれ出願したが、前者については昭和五六年五月一五日付で前記乙第三号証の1の意匠を引例として拒絶理由通知(乙一一)を受け、後者については昭和五七年一一月一二日付で前記乙第二号証の意匠を引例として拒絶理由通知(乙一二)を受けた。

訴外会社は、乙第一〇号証の1の意匠登録出願について受けた拒絶査定に対し不服の審判請求を行い、その審判請求理由補充書(乙一三)において、上段物干し杆が長い平板に多数の孔(ハンガー掛用孔)が穿設されたものであり、下段物干し杆の先端部に「つ」の字形クリップが形成されていることを特徴として挙げ、引例意匠は、上段物干し杆の平板の上縁に多数の凹部が形成され、下段物干し杆の先端部に「つ」の字形クリップが形成されていないという、引例意匠との極めて細部の部分的形状における差異を強調して両者が類似しない旨を主張した。また、訴外会社は、乙第一〇号証の2の意匠登録出願について、前記拒絶理由通知に対して、昭和五七年一二月二二日付意見書(乙一四)において、〈1〉上段部は、各物干し杆の下面に二個のピンチが吊架されて全体としてピンチが多数で豪華な感を呈するのに対し、下段部は、各物干し杆の先端が「つ」の字形に形成されているだけの単純な形状であり、これら全く異なった上下の物干し杆の組合せにより、全体として独特の意匠感、趣味感を呈すること、〈2〉全体的には、上段物干し杆は、上面に洗濯物を掛けるのではなくピンチによってのみ洗濯物を吊り下げるものであり、下段物干し杆は、その上面に洗濯物を掛け、その先端の「つ」の字形部に洗濯物を挟んで使用するものであることを看者に直感させる意匠であること、〈3〉物干し杆を支持する円形集束盤は、その直径が支柱に対して相当大であり、力感的美を呈することという、引例意匠との極めて細部の部分的形状における差異を強調して類似しない旨主張し、結局、乙第一〇号証の1の意匠登録出願については昭和六二年九月一〇日に意匠登録を受け(第七二三二九三号)、同号証の2の意匠登録出願については昭和六三年一月一一日に右登録意匠を本意匠として類似意匠の意匠登録を受けた(第七二三二九三号の類似一)。

本件登録意匠は、右乙第一〇号証の2の意匠の支柱頂部に傘の柄のような長尺の吊下げ部材を取り付けただけの形状であるから、右出願の経過からすると、本件登録意匠の上段物干し杆は、二個のピンチのみで洗濯物を吊り下げるもので、同号証の1の意匠のような多数の孔(ハンガー掛用孔)は穿設されていないものであり、上段物干し杆に穿設された各二個の小孔は、ピンチ吊下げ用孔(ピンチ吊下げ用の紐を通す孔)にすぎず、ハンガー掛用孔ではない。このことは、乙第一〇号証の1の意匠に係る判定請求事件における判定事件弁駁書(乙一八)において、その意匠権者である訴外会社が、乙第一〇号証の2の意匠は同号証の1の意匠と「上段掛杆の本数が相違し、上段掛杆からハンガー掛用孔を取り去って洗濯バサミを吊り下げたものである点で、上段掛杆の形状が相違している」と主張していることからも明らかである。原告は、本件登録意匠の願書(甲一一)添付の正面図を測定して上段物干し杆に穿設された孔はピンチ吊下げ用孔というようなものではなくハンガー掛用孔として使用できる径を有するものである旨主張するが、視覚を通じて捉えられる物品の外観による限りピンチ吊下げ用孔という外はないし、原告主張のようにハンガー掛用孔というのであれば、ピンチと孔の位置が本件登録意匠のように一致していてはピンチで干す洗濯物とハンガーが干渉し合うから、ピンチと孔の位置をずらさなければ意味がない。

また、右弁駁書(乙一八)において訴外会社は、公知の二段式物干し器の形状(乙二、三の1、一六の1)との対比において、乙第一〇号証の1の意匠の特徴部分の一つとして、上段物干し杆及び下段物干し杆は、いずれも取付部から外側にかけて上向き放射状とされているため、花弁が広がっているような優美な印象を与える旨主張しているから、この点も本件登録意匠の重要な要素ということができる。

(3) 更に、特許庁は、極めて細部の部分的形状の差異をもって別意匠として意匠登録を認めている。

すなわち、訴外会社は、前記のとおり乙第一〇号証の2の意匠の支柱頂部に傘の柄のような長尺の吊下げ部材を取り付けただけの本件登録意匠について意匠登録を受け、昭和六三年一一月一五日、同号証の2の意匠の支柱下部や中央に洗濯バサミ籠を設けただけの物干し器についても意匠登録を受けた(乙一五の1~3)。また、原告は、上段物干し杆の下面に二個のピンチが吊架されている点や下段物干し杆の先端に「つ」の字形クリップがあり、物干し杆を支持する円形集束盤が相当大きい点など、乙第一〇号証の2の意匠と引例意匠との差異として挙げた細部の部分的形状もほぼ同じである物干し器の意匠について意匠登録を受けた(乙一六の1ないし3)。

特許庁のこのような類否判断においては、この種上下二段の物干し杆を有するスタンド式物干し器において、まず、上下二段の各物干し杆の基本的な構成に認められる美感の異同を見ながら、右基本的構成における美感が同じであっても細部において特徴的な形態が付加されただけで非類似としていることが理解できる。

(二) 原告が本件登録意匠の要部として主張するところは、以下のとおり誤りである。

(1) まず、上段物干し杆に複数の孔を穿設することは、本件登録意匠の出願前に公知の形態である(実開昭五六-二三〇九七号公開実用新案公報〔乙一九〕、実公昭五七-三二八六五号実用新案公報〔乙二〇〕、実公昭五七-三二八六六号実用新案公報〔乙二一〕の各第3図)。のみならず、そもそも本件登録意匠には前記のとおりピンチ吊下げ用の紐を通す孔しかなく、その孔の数も二個に限定される。

(2) 下段物干し杆の先端に「つ」の字形クリップを形成することも本件登録意匠の出願前に公知の形態である(前記乙一九ないし二一の各第3図)。

(3) 原告は、上下二段式のスタンド式物干し器において支柱頂部に吊下げ用フックが設けられた上段物干し杆は、従来全く見られなかったものであって、上段物干し杆及び下段物干し杆(又は上段物干し杆のみ)を支柱の一部から取り外すことにより吊下げ用フックを物干し杆等に吊り下げて屋外でも使用することができる画期的なもので、独創的な機能美を有するものであると主張するが、本件登録意匠がこのような機能を有することは本件登録意匠の願書(乙一一)にこれを示唆する記載はない。しかし、仮に原告の主張のとおりであるとすれば、本件登録意匠は、吊り下げた場合の上段物干し杆と下段物干し杆(又は上段物干し杆のみ)の形態だけが新規となるにすぎないが、そうすると、本件登録意匠の出願前に頒布された多数の公開実用新案公報、実用新案公報、意匠公報(乙三六ないし四〇、四一の1~5、四二ないし四六)に示されるように、吊下げ用の上段物干し杆の形態については、その物干し杆自体やフックの形態だけでも様々な意匠登録や考案がなされているのであり、新規部分の範囲がいかに狭いかが理解できる。上段物干し杆だけを吊り下げる形態はもちろん、上下二段重ねの物干し杆を物に吊り下げた形態は、決して独創的な意匠ではない。

(4) 本件登録意匠と本件類似意匠一(甲一三)は、上段物干し杆の頂部にフックがある点、上段物干し杆が下段物干し杆と同様一二本であって上向き放射状に広がっていること、上段物干し杆にはピンチが常設されていることが共通している。一方、出願人たる訴外会社が本件登録意匠及び本件類似意匠一とは類似しないとの認識の下で昭和六二年一〇月六日出願し、特許庁においても類似しないと判断されて平成元年七月二六日登録された第七七四四一九号意匠(乙四七)は、下段物干し杆が上向き放射状に広がっており、上段物干し杆の頂部にフックがある点は本件登録意匠及び本件類似意匠一と共通するものの、上段物干し杆が水平で、ピンチがなく、代わりにハンガー掛用孔と思われる孔を多数設けている点で異なる。したがって、本件登録意匠においては、上段物干し杆が下段物干し杆と同様一二本であって上向き放射状に広がっていること、上段物干し杆にはピンチが常設されていることに大きなウエイトのあることが容易に理解できる。

右乙第四七号証の意匠について、原告は、上段物干し杆が二本左右に延びているだけで、三、四本以上の多数が全方位に広がったというものではないと主張するが、昭和六〇年四月一七日出願・平成六年一月二八日登録の第八九六一五五号意匠(乙三二)は、上段物干し杆にはピンチが付き、頂部には吊下げ用のフックが付いているところ、原告の主張に従えば、このような形態の二段式スタンド物干し器の意匠登録が認められるはずがない。平成五年一一月一八日出願・平成七年九月二二日登録の第九四〇八二三号意匠(乙四八)に至っては、上段物干し杆は上向きでピンチが常設され、下段物干し杆の形態も本件登録意匠との差異は小さいにもかかかわらず、別意匠として登録されている。

(三) 以上によれば、本件登録意匠の要部は次のとおりと解するのが相当である。

〈1〉 一二本の上下二段の物干し杆が断面矩形状の部材からなり、それぞれ同一位置で上下一対一に対応するように配設され、いずれも取付部から外側にかけて上向き放射状とされ、花弁が広がっているような印象を与える形状であること、

〈2〉 上段物干し杆には、それぞれに二個のピンチが吊り紐で吊り下げられていること、

〈3〉 支柱の頂部には、傘の長柄を逆にしたような形状の物掛け部が設けられ、これにより二段重ねの傘の骨を逆さに開いたような観を呈し、全体的に長身な感じがすること。

2 被告意匠と本件登録意匠との対比

(一) イ号意匠の美的形態の構成は、次のとおりである。

〈1〉 スタンド式の上下二段の物干し杆からなる物干し器である。

〈2〉 上段物干し杆は四本からなり、直角交差状に配設され、中央の取付盤からそれぞれ水平に延伸している。

〈3〉 各上段物干し杆は、断面「I」型の型材であって、縦に長い楕円状のハンガー掛用孔が六個等間隔に開いており、該孔と孔の間の杆下縁に扁平釣針状のフックが六個等間隔に設けられている。

〈4〉 上段物干し杆の中央の取付盤は、支柱から取外し可能に形成され、取付盤上部に円弧状の鉤が設けられていて、物掛けに吊り下げられるようになっており、取付盤下部には、支柱との嵌着筒が連続し、これに上方に向かって一対の「L」字形突起が設けられている。

〈5〉 下段物干し杆は二〇本からなり、中央の取付盤からそれぞれ放射状に水平に延伸している。

〈6〉 各下段物干し杆は、断面「エ」型で、先端部にはピンチを掛けるツメがあり、両端は洗濯物を挟めるようクリップ状となっている。

〈7〉 下段物干し杆の中央取付盤には、凹凸模様が刻まれ、右物干し杆端部のクリップ状部の集合と相まって、独特の豪華さと気品を看者に印象づける。

〈8〉 脚部は三脚で、支柱同様のパイプ状からなり、支柱との接合部には、特異な三角稜状のカバーが設けられ、安定感のある印象を与える。

(二) ロ号意匠の美的形態の構成は、次のとおりである。

〈1〉 スタンド式の上下二段の物干し杆からなる物干し器である。

〈2〉 上段物干し杆は四本からなり、直角交差状に配設され、中央の取付盤からそれぞれ水平に延伸している。

〈3〉 各上段物干し杆は、断面「I」型の型材であって、縦に長い楕円状のハンガー掛用孔が六個等間隔に開いており、該孔と孔の間の杆下縁に扁平釣針状のフックが六個等間隔に設けられている。

〈4〉 上段物干し杆の中央の取付盤は、支柱から取外し可能に形成され、取付盤上部に円弧状の鉤が設けられていて、物掛けに吊り下げられるようになっており、取付盤下部には、支柱との嵌着筒が連続し、これに上方に向かって一対の「L」字形突起が設けられている。

〈5〉 下段物干し杆は二四本からなり、中央の取付盤からそれぞれ放射状に水平に延伸している。

〈6〉 各下段物干し杆は、断面「T」型で、先端部にはピンチを掛けるためのツメがあり、両端は洗濯物を挟めるようクリップ状となっている。

〈7〉 脚部は三脚で、中央がドーナツ状部で中央から三方に伸びるリンクを有し、右中央のドーナツ状部は支柱を貫通させ、三方に伸びたリンクの各他端は三脚の各脚と連結し、脚部を連動して開閉するとともに各脚部を補強するようになっており、三脚の集合部には富士山状のカバーが設けられている。

(三) 右(一)及び(二)によれば、被告意匠は、前記1(三)の本件登録意匠の要部を備えておらず、何よりもまず、上段物干し杆が四本で、直角交差状に配設されているのに対し、下段物干し杆は二〇本(イ号意匠)又は二四本(ロ号意匠)もの物干し杆が放射状に配設されているため、本件登録意匠のように上下二段の各物干し杆の配設に上下の統一性や規則性がなく、上下二段の各物干し杆が取付盤から水平に延伸しているため、本件登録意匠のように取付部から外側にかけて上向き放射状とされ、花弁が広がっているような印象を与える形状となっていないから、既にこの点で被告意匠の美的形態は基本構成において本件登録意匠と明確に異なり、その類似範囲に属しないことが明らかである。

原告は、被告物件の下段物干し杆は傾斜角度の実測値によれば上方へ傾斜しているから本件登録意匠と同じ印象を与える旨主張するが、意匠は視覚を通じて捉えられる物品の外観に関するものであるから、これによる限り、被告物件の上下二段の各物干し杆は、水平に延伸していることが明らかである。

(四) また、被告意匠は、その他の美的形態においても以下のとおり本件登録意匠と異なるからこれに類似しない。

(1) 本件登録意匠は、上段物干し杆にそれぞれ二個のピンチが吊り紐で吊り下げられていることが特徴的であり、右ピンチで洗濯物を挟んで干すことしか考えられていない(そもそも上段物干し杆が一二本もあっては、各物干し杆が互いに干渉し合うから、ハンガーを掛けたり大小の洗濯物の干し方を種々アレンジさせて干すという機能性は考慮されていない)のに対し、被告意匠は、上段物干し杆にそれぞれ六個の縦長の楕円状のハンガー掛用孔と下縁に扁平釣針状のフックが設けられており、右フックにピンチを付けた状態のものではなく、上段物干し杆の使用の仕方は使用者の任意の選択と工夫に委ねられている。

(2) 本件登録意匠では、上下二段の物干し杆が取付部から外側に上向き放射状に広がっており、花弁が広がっているような優美さを与えるとともに、支柱の頂部に設けられた傘の長柄を逆にしたような形状の物掛け部と一体的に見た場合、全体的イメージとして二段重ねの傘の骨を逆さに開いたような観を呈し、全体的に長身な感じを与えるものとなっている。これに対し、被告意匠では、取付盤上部にハンガーの掛け部と同様の形状の四分の三円弧状の鉤が設けられているが、右形状は、上段物干し杆だけを支柱から取り外してハンガータイプで使用できるという機能性から出ている形態に外ならず、本件登録意匠のような傘の長柄を逆にしたような形状のものでないことは明らかである。

(3) 本件登録意匠の下段物干し杆の先端に形成された「つ」の字形クリップは、前記1(二)(2)のとおり公知意匠であるが、被告意匠では、下段物干し杆の両端がクリップ状となっており、しかも最先端にはピンチを掛けるための上向きのツメがある。これは、少ないスペースでいかに効率よく、多くの、また種々の形態や長さの洗濯物を干せるかという機能性を主婦の立場から追求したものであって、購入者は、かかる観点で物品の形態やその形態から予想される機能性に着目して購入すべき物品を選択するのである。前記のとおり物干し器に関する意匠について一見些細と思われる形態の違いだけで非類似と判断されてきたのは、一見些細と思われる形態の違いにより機能性の点では大きな違いが認められ、それが審美感を異にするものと判断されたからに外ならない。被告意匠は、本件登録意匠との形態の差異の中に数多くの機能が追求されており、独自の創作性がその形態に表れているのである。

(五) なお、本件類似意匠二(甲一八ないし二一)は、本件登録意匠及び本件類似意匠一(甲一三)との統一的な類似性が全くなく、その登録は明らかに無効である。仮に有効と考えたとしても、本件登録意匠と本件類似意匠二の共通点は、わずかに本件類似意匠二における上段物干し杆頂部のフックの形態及び脚部の形態が本件登録意匠における上段物干し杆頂部のフック自体(柄の部分を除く)の形態及び脚部の形態と同一であるということのみであるが、フック自体の形態及び脚部の形態が本件類似意匠一と同一である乙第四七号証の意匠が別意匠として登録されているところからすると、脚部の形態が同一であっても、フックの形態が類似の範囲内にあるだけでは両意匠が類似するとはいえないことが理解できる。そうすると、フック自体の形態と脚部の形態がいずれも本件登録意匠と同一形態であることが、要部認定の必須要件であることが理解できる。

二  争点2(被告に損害賠償義務があるとした場合に、原告に対し賠償すべき損害の額)について

【原告の主張】

被告は、平成五年六月から平成六年一〇月までの間に被告物件を製造、輸入、販売して合計三億円の売上げを得ており、その利益率は二〇%である。

したがって、被告は、被告物件の販売により右売上額三億円に利益率二〇%を乗じた六〇〇〇万円の利益を得たものであり、本件登録意匠に係る製品を製造、販売している原告は、右と同額の損害を被ったものと推定される(本件訴訟においては、内金請求として一〇〇〇万円の支払を求める)。

第四  争点1(被告意匠は、本件登録意匠に類似するものであるか)に対する判断

一  本件登録意匠及び被告意匠の構成

1(一)  本件登録意匠は、末尾添付の意匠公報(甲五)の記載によれば、物干し器に係る形状であって、次のとおりの構成であると認められる。

(1) 垂直に立設された支柱は、細長い丸棒状である。

(2) 支柱の上端には上面が円錐状にややふくらんだ円盤状の上位集束盤が、支柱の中央部には下端に嵌着筒が突設された上面が円錐状にややふくらんだ円盤状の下位集束盤が、支柱の下端には脚部が設けられている。

(3) 上位集束盤の上端には、上方に向けて支柱の約六分の一の長さの首部を有する傘の柄状の吊下げ用フックが取り付けられている。

(4) 上位集束盤には、細長い断面角形棒状の一二本の上段物干し杆がやや上向き放射状に枢着されている。

(5) 各上段物干し杆には、先端部寄りと根元部寄りに各一個の小孔が穿設されており、それぞれ吊下げ紐が挿通され、これによりピンチが吊り下げられている。

(6) 下位集束盤には、細長い断面角形棒状の一二本の下段物干し杆がやや上向き放射状に枢着されている。

(7) 各下段物干し杆の先端部には、上向きに「つ」の字形クリップが形成されている。

(8) 脚部は、支柱の半分以下の太さの丸棒状の四本のステーからなり、支柱との接合部に設けられた略半円状の四個の螺着板に斜め下向き放射状に枢着されている。

(9) 上段物干し杆の長さは物干し器全体の高さの約六分の一であり、下段物干し杆は上段物干し杆より長く、脚部の四本のステーは、その長さが上段物干し杆とほぼ同じであり、高さが物干し器全体の高さの約八分の一であり、その放射状展開先端部の位置が上段物干し杆の放射状展開先端部の位置よりもやや内側にある。

(二)  本件類似意匠一は、末尾添付の意匠公報(甲一三)の記載によれば、物干し器に係る形状であって、次のとおりの構成であると認められる。

(1) 垂直に立設された支柱は、細長い丸棒状である。

(2) 支柱の上端には上面が円錐状にややふくらんだ円盤状の上位集束盤が、支柱の中央部には下端に円筒形の取手が突設された上面が円錐状にややふくらんだ円盤状の下位集束盤が、支柱の下端には脚部が設けられている。

(3) 上位集束盤の上端には、上方に向けて傘の柄状の吊下げ用フックが取り付けられている。

(4) 上位集束盤には、細長い断面角形棒状の一二本の上段物干し杵がやや上向き放射状に枢着されている。

(5) 各上段物干し杵は、先端が外向きの縦に長い「C」字形に形成されており、これにピンチが一個吊り下げられている。

(6) 下位集束盤には、細長い断面角形棒状の一二本の下段物干し杵がやや上向き放射状に枢着されている。

(7) 各下段物干し杵の先端部には、上向きに「つ」の字形クリップが形成されている。

(8) 脚部は、支柱の半分以下の太さの丸棒状の四本のステーからなり、支柱との接合部に設けられた略半円状の四個の螺着板に下向き放射状に枢着されている。

(9) 上段物干し杵の長さは物干し器全体の高さの約六分の一であり、下段物干し杵は上段物干し杵より長く、脚部の四本のステーは、その長さが上段物干し杵とほぼ同じであり、高さが物干し器全体の高さの約七分の一であり、その放射状展開先端部の位置が上段物干し杵の放射状展開先端部の位置よりもやや内側にある。

(三)  本件類似意匠二は、末尾添付の類似意匠登録願添付の図面(甲一八ないし二〇)によれば、物干し器に係る形状であって、次のとおりの構成であると認められる。

(1) 垂直に立設された支柱は、細長い丸棒状である。

(2) 支柱の上端には上面が円錐状にややふくらんだ円盤状の上位集束盤が、支柱の中央部には下端に嵌着筒が突設された上面が円錐状にややふくらんだ円盤状の下位集束盤が、支柱の下端には脚部が設けられている。

(3) 上位集束盤の上端には、上方に向けて傘の柄状の吊下げ用フックが取り付けられている。

(4) 上位集束盤には、細長い断面角形棒状の四本の上段物干し杵が直角交差状に水平に枢着されている。

(5) 各上段物干し杵には、先端寄りの杵下縁に釣針状のフックが三個等間隔に設けられており、これにピンチが一個ずつ取り付けられている。

(6) 下位集束盤には、細長い断面角形棒状の二〇本の下段物干し杵が放射状に水平に枢着されている。

(7) 各下段物干し杵の先端部には、上向きに「つ」の字形クリップが形成されている。

(8) 脚部は、支柱の半分以下の太さの丸棒状の三本のステーからなり、支柱との接合部に設けられた略半円状の三個の螺着板に下向き放射状に枢着されている。

(9) 上段物干し杵の長さは物干し器全体の高さの約五分の一であり、下段物干し杵は上段物干し杵より長く、脚部の三本のステーは、その長さが上段物干し杵とほぼ同じであり、高さが物干し器全体の高さの約七分の一であり、その放射状展開先端部の位置が上段物干し杵の放射状展開先端部の位置よりもやや内側にある。

2(一)  イ号意匠は、別紙イ号図面(一)(前記第二の二のとおり、上段物干し杆にピンチが吊り下げられているか否かの点を除く)、イ号物件目録(二)添付の各写真、検甲第三号証によれば、物干し器に係る形状であって、次のとおりの構成であることが認められる。

(1) 垂直に立設された支柱は、細長い丸棒状である。

(2) 支柱の上端には下端に嵌着筒が突設された円盤状の上位集束盤が、支柱の中央部には嵌着筒を介して上面が円錐状にややふくらんだ円盤状の下位集束盤が、支柱の下端には脚部が設けられている。

(3) 上位集束盤の上端には、上方に向けて半球状の基部を有する四分の三円弧状の吊下げ用フックが取り付けられている。また、上位集束盤下端に突設された嵌着筒には、上方に向かって一対の「L」字形突起が設けられている。

(4) 上位集束盤には、細長い断面「I」字形板状の四本の上段物干し杆が直角交差状に水平に枢着されている。

(5) 各上段物干し杆には、縦に長い楕円状のハンガー掛用孔が六個等間隔に穿設されており、該孔と孔の間の杆下縁に扁平釣針状のフックが六個等間隔に設けられている。

(6) 下位集束盤には、細長い断面「エ」字形棒状の二〇本の下段物干し杆がほんのわずか上向き放射状に枢着されている。

(7) 各下段物干し杆の先端部には、上向きに「つ」の字形クリップ及びピンチ吊下げ用のツメが形成されており、根元部にも右クリップよりもやや小さな「つ」の字形クリップが形成されている。

(8) 脚部は、支柱と同じ太さの丸棒状の三本のステーからなり、支柱との接合部に設けられた三角稜状のカバーに下向き放射状に枢着されている。

(9) 上段物干し杆の長さは物干し器全体の高さの約六分の一であり、下段物干し杆は上段物干し杆より長く、脚部の三本のステーは、その長さが上段物干し杆の約二倍であり、高さが物干し器全体の高さの約四分の一であり、その放射状展開先端部の位置が上段物干し杆及び下段物干し杆の放射状展開先端部の位置よりもやや外側にある。

(二)  ロ号意匠は、別紙ロ号図面(一)(前記第二の二のとおり、上段物干し杆にピンチが吊り下げられているか否かの点を除く)、ロ号物件目録(二)添付の各写真、検甲第四号証によれば、物干し器に係る形状であって、次のとおりの構成であることが認められる。

(1) 垂直に立設された支柱は、細長い丸棒状である。

(2) 支柱の上端には下端に嵌着筒が突設された円盤状の上位集束盤が、支柱の中央部には円盤状の下位集束盤が、支柱の下端には脚部が設けられている。

(3) 上位集束盤の上端には、上方に向けて半球状の基部を介して四分の三円弧状の吊下げ用フックが取り付けられている。また、上位集束盤下端に突設された嵌着筒には、上方に向かって一対の「L」字形突起が設けられている。

(4) 上位集束盤には、細長い断面「I」字形板状の四本の上段物干し杆が直角交差状に水平に枢着されている。

(5) 各上段物干し杆には、縦に長い楕円状のハンガー掛用孔が六個等間隔に穿設されており、該孔と孔の間の杆下縁に扁平釣針状のフックが六個等間隔に設けられている。

(6) 下位集束盤には、細長い断面「T」字形棒状の二四本の下段物干し杆がほんのわずか上向き放射状に枢着されている。また、右下位集束盤は、ほぼ円筒形のストッパーにより上下位置可変に係止されている。

(7) 各下段物干し杆の先端部には、上向きに「つ」の字形クリップ及びピンチ吊下げ用のツメが形成されており、根元部にも右クリップよりもやや小さな「つ」の字形クリップが形成されている。

(8) 脚部は、支柱が貫通する上面が円錐状にややふくらんだ円盤状のカバーに枢着された、支柱よりやや細い丸棒状の三本のステーからなり、右カバーの下方において支柱が貫通するドーナツ状部分から三方に伸びるリンクを有し、右各リンクの他端は二股となっていて各ステーを把持するとともにステーに枢支され、ステーを連動させて開閉するとともにステーを補強するようになっている。

(9) 上段物干し杆の長さは物干し器全体の高さの約五分の一であり、下段物干し杆は上段物干し杆より長く、脚部の三本のステーは、その長さが上段物干し杆の約一・五倍であり、高さが物干し器全体の高さの約六分の一であり、その放射状展開先端部の位置が下段物干し杆の放射状展開先端部の位置とほぼ同じである。

二  被告意匠と本件登録意匠との対比

1  本件登録意匠の全体の基本的形状は、垂直に立設された細長い丸棒状の支柱部、支柱部の上端に設けられた上段物干し杆部、支柱部の中央部に設けられた下段物干し杆部及び支柱部の下端に設けられた脚部により構成される二段式のスタンド式物干し器であって、上段物干し杆部は支柱部から放射状に外方に向かう細長い棒状の複数の上段物干し杆と枢着部材である上位集束盤からなり、下段物干し杆部は支柱部から放射状に外方に向かう細長い棒状の複数の下段物干し杆と枢着部材である下位集束盤からなり、脚部は支柱部を中心として斜め下方に放射状に開く複数のステーからなる、というものであることが認められる。そして、被告意匠の全体の基本的形状も、これと同様のものであることが認められる。

しかしながら、いずれも本件登録意匠の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、昭和四〇年七月二一日特許庁資料館受入れの同庁意匠課公知資料番号第四四〇九一一八号外国カタログ「MANUFARANCE」五二八頁所載の図面(乙二)、昭和五一年九月七日出願・昭和五四年一月三〇日登録の第五〇〇八六二号意匠公報(乙三の1)、昭和五五年六月九日出願・昭和五七年六月一八日登録の同号の類似一の意匠公報(乙三の2)、昭和五二年一二月六日に出願公開された実開昭五二-一六〇五三九号公開実用新案公報(乙四)、昭和五四年一月二九日に出願公開された実開昭五四-一三四二六号公開実用新案公報(乙五)、昭和三四年一一月一〇日に出願公告された実公昭三四-一八〇六二号実用新案公報(乙六)、昭和五一年一二月一五日に出願公告された実公昭五一-五二五二〇号実用新案公報(乙七)、昭和五五年五月一五日に出願公告された実公昭五五-二〇三一二号実用新案公報(乙八)、昭和五六年一〇月九日に出願公告された実公昭五六-四三二七六号実用新案公報(乙九)、昭和五六年三月二日に出願公開された実開昭五六-二三〇九七号公開実用新案公報(乙一九)、昭和五七年七月二〇日に出願公告された実公昭五七-三二八六五号実用新案公報(乙二〇)には、その全体の基本的形状において、垂直に立設された細長い丸棒状の支柱部、支柱部の上端に設けられた上段物干し杆部、支柱部の中央部に設けられた下段物干し杆部及び支柱部の下端に設けられた脚部により構成される二段式のスタンド式物干し器であって、上段物干し杆部は支柱部から放射状に外方に向かう細長い棒状の複数の上段物干し杆と枢着部材である上位集束盤からなり、下段物干し杆部は支柱部から放射状に外方に向かう細長い棒状の複数の下段物干し杆と枢着部材である下位集束盤からなり、脚部は支柱部を中心として斜め下方に放射状に開く複数のステーからなる意匠が示されていることが認められ、右の本件登録意匠の全体の基本的形状自体は、昭和四〇年頃から存在する二段式のスタンド式物干し器としてきわめてありふれた形態のものであるというべきであって、需要者の注意を惹くものとは考えられないから、到底本件登録意匠の要部ということはできず、したがって、被告意匠が右全体の基本的形状において本件登録意匠と一致するからといって、直ちに本件登録意匠に類似するということはできない。

そして、前記支柱部については、前記した垂直に立設された細長い丸棒状という以上に具体的形状というものは存在しないから、本件登録意匠の要部は、上段物干し杆部、下段物干し杆部及び脚部のそれぞれの部位における具体的形状にあるということになる。本件登録意匠の要部についての原告の主張中、右説示に反する部分は採用することができない。

2  そこで、上段物干し杆部、下段物干し杆部及び脚部のそれぞれの部位における具体的形状について、当事者双方の主張を参酌しつつ、被告意匠と本件登録意匠との類否を検討することとする。

各部位における具体的形状について、被告意匠は、本件登録意匠と次の点で一致する(特に指摘しないものは、被告意匠に共通のものである)。

〈1〉 上位集束盤の上端に、上に向けて吊下げ用フックが取り付けられている。

〈2〉 下段物干し杆の先端部には、上向きに「つ」の宇形クリップが形成されている。

〈3〉 上段物干し杆の長さは物干し器全体の高さの約六分の一であり(イ号意匠)、下段物干し杆は上段物干し杆より長い。

原告は、本件登録意匠の上段物干し杆に穿設された孔は、ピンチ吊下げ用孔というものではなく、ハンガー掛用孔として使用できる径を有するものであると主張し、この点も被告意匠の上段物干し杆に穿設された縦に長い楕円状のハンガー掛用孔と一致する旨主張するようであるが、本件登録意匠の意匠公報(甲五)によれば、上段物干し杆に穿設された孔は、ピンチを取り外してハンガー掛用孔として使用することは予定されていないものと認められるから、原告の右主張は採用できない。

また、原告は、被告意匠は上段物干し杆下縁に設けられた扁平釣針状のフックにピンチが吊り下げられたものである旨主張し、この点でも本件登録意匠と一致する旨主張するが、本件登録意匠と対比すべき被告意匠は、被告物件の通常の使用態様の下におけるものであることを要するところ、検甲第一号証の1・2(イ号物件の入った包装箱の写真)、第二号証(ロ号物件の入った包装箱の写真)、甲第六号証(被告のパンフレット)及び弁論の全趣旨によれば、被告物件の包装箱には、二四個のピンチが一緒に梱包されているとはいえ、上段物干し杆下縁の扁平釣針状のフックにピンチを取り付けた状態で販売されているものではなく、下段物干し杆先端部にもピンチ吊下げ用のツメが形成されており、包装箱には上段物干し杆に穿設されたハンガー掛用孔に洗濯物を掛けたハンガーを掛けたところを描いた図が示されていることが認められ、右扁平釣針状のフックにピンチを吊り下げることが、被告物件の通常の使用態様であるということはできないから、右主張も採用できない。

更に、原告は、被告意匠と本件登録意匠とは脚部の全体に占める割合がほぼ同じである旨主張するが、前記一1(一)(9)認定の事実と同2の(一)(9)及び(二)(9)認定の事実とを対比すれば、右主張は採用できないことが明らかである。

一方、各部位における具体的形状について、被告意匠は、本件登録意匠と次の点で相違する。

(1) 上位集束盤は、本件登録意匠では、上面が円錐状にややふくらんだ円盤状であるのに対し、被告意匠では、下端に嵌着筒が突設された円盤状であり、また嵌着筒には上方に向かって一対の「L」字形突起が設けられている。

(2) 下位集束盤は、本件登録意匠では、下端に嵌着筒が突設された上面が円錐状にややふくらんだ円盤状であるのに対し、イ号意匠では、上面が円錐状にややふくらんだ円盤状で、嵌着筒を介して支柱に設けられており、ロ号意匠では、円盤状で、ほぼ円筒形のストッパーにより上下位置可変に係止されている。

(3) 上位集束盤の上端に上方に向けて取り付けられている吊下げ用フックの形状は、本件登録意匠では、支柱の約六分の一の長さの首部を有する傘の柄状であるのに対し、被告意匠では、半球状の基部を有する四分の三円弧状である。

(4) 上段物干し杆は、本件登録意匠では、細長い断面角形棒状で、本数が一二本であり、上位集束盤にやや上向き放射状に枢着されており、先端部寄りと根元部寄りに各一個のピンチ吊下げ用の小孔が穿設されているのに対し、被告意匠では、細長い断面「I」字形板状で、本数が四本であり、上位集束盤に直角交差状に水平に枢着されており、縦に長い楕円状のハンガー掛用孔が六個等間隔に穿設され、該孔と孔の間の杆下縁に扁平釣針状のフックが六個等間隔に設けられている。

(5) 下段物干し杆は、本件登録意匠では、細長い断面角形棒状で、本数が一二本であり、下位集束盤にやや上向き放射状に枢着されており、上向き「つ」の字形クリップが形成されているのは杆の先端部だけであるのに対し、被告意匠では、細長い断面「エ」字形棒状(イ号意匠)又は断面「T」字形棒状で、本数が二〇本(イ号意匠)又は二四本(ロ号意匠)であり、下位集束盤にほんのわずか上向き放射状に枢着されており、杆の先端部及び根元部の両方に上向き「つ」の字形クリップが形成されているとともに、先端部にはピンチ吊下げ用のツメも形成されている。

(6) 脚部は、本件登録意匠では、支柱の半分以下の太さの丸棒状の四本のステーからなり、支柱との接合部に設けられた略半円状の四個の螺着板に下向き放射状に枢着されているのに対し、イ号意匠では、支柱と同じ太さの丸棒状の三本のステーからなり、支柱との接合部に設けられた三角稜状のカバーに下向き放射状に枢着されており、ロ号意匠では、支柱が貫通する上面が円錐状にややふくらんだ円盤状のカバーに枢着された、支柱よりやや細い丸棒状の三本のステーからなり、右カバーの下方において支柱が貫通するドーナツ状部分から三方に伸びるリンクを有し、右各リンクの他端は二股となっていて各ステーを把持するとともにステーに枢支され、ステーを連動させて開閉するとともにステーを補強するようになっている。

(7) 上段物干し杆の長さは、本件登録意匠では物干し器全体の高さの約六分の一であるのに対し、ロ号意匠では約五分の一であり、また、脚部のステーは、本件登録意匠では、長さが上段物干し杆とほぼ同じで、高さが物干し器全体の高さの約八分の一であり、その放射状展開先端部の位置が上段物干し杆の放射状展開先端部の位置よりもやや内側にあるのに対し、イ号意匠では、長さが上段物干し杆の約二倍で、高さが物干し器全体の高さの約四分の一であり、その放射状展開先端部の位置が上段物干し杆及び下段物干し杆の放射状展開先端部の位置よりもやや外側にあり、ロ号意匠では、長さが上段物干し杆の約一・五倍で、高さが物干し器全体の高さの約六分の一であり、その放射状展開先端部の位置が下段物干し杆の放射状展開先端部の位置とほぼ同じである。

3  右2に挙げた一致点について検討するに、以下のとおり、いずれも被告意匠と本件登録意匠との類否判断に大きな影響を及ぼすものとはいえない。

(一) 一致点〈1〉について、原告は、上下二段式のスタンド式物干し器において頂部に吊下げ用フックが設けられた上段物干し杆は、従来全く見当たらなかったものであって、上段物干し杆及び下段物干し杆(又は上段物干し杆のみ)を支柱の一部から取り外して吊下げ用フックを物干し竿等に吊り下げることにより屋外でも使用できるという画期的なもので、独創的な機能美を有するものであり、この点が本件登録意匠において看者の注意を特に強く惹くものである旨主張する。

本件登録意匠のような前記全体の基本的形状を有する二段式のスタンド式物干し器において、上位集束盤の上端に上に向けて吊下げ用フックが取り付けられた意匠が本件登録意匠の出願前に存在したことは、本件全証拠によっても認められない。

しかしながら、本件類似意匠一の意匠公報(甲一三)、本件類似意匠二の類似意匠登録願添付の図面(甲一八ないし二〇)及び弁論の全趣旨によれば、二段式のスタンド式物干し器において右のように上位集束盤の上端に吊下げ用フックを設けた理由は、原告主張のように上段物干し杆及び下段物干し杆(又は上段物干し杆のみ)を支柱の一部から取り外して吊下げ用フックを物干し竿等に吊り下げることにより屋外でも使用できるようにすることにあることが明らかであるところ、本件登録意匠の出願前に日本国内において頒布された刊行物である昭和五二年二月三日に出願公開された実開昭五二-一五三三一号公開実用新案公報(乙四六)には、一段式のスタンド式物干し器において、集束盤の上端に吊下げ用フックを取り付けたものが示されており、この物干し器の使用態様の例示として、物干し杆を支柱ごと脚部から取り外して吊下げ用フックを物干し竿等に吊り下げて使用することまで示されている。また、昭和五二年九月一九日に出願公開された実開昭五二-一二二九二三号公開実用新案公報(乙四四)には、二段式の物干し器であって上位集束盤の上端に吊下げ用フックを取り付けたものが示されており、昭和四五年二月七日出願・昭和四七年一二月二七日登録の第三六〇五九二号意匠公報(乙四一の1)、昭和五三年二月一四日登録の同号の類似一・二・四・五の各意匠公報(乙四一の2~5)、昭和五二年二月一四日出願・昭和五四年八月三〇日登録の第五一七一三七号意匠公報(乙四二)、昭和五二年二月二八日に出願公開された実開昭五二-二八六二八号公開実用新案公報(乙三六)、昭和五三年五月二二日に出願公開された実開昭五三-五九九二六号公開実用新案公報(乙三七)、昭和五二年一〇月一五日に出願公告された実公昭五二-四五四五五号実用新案公報(乙三九)、昭和五三年一〇月二六日に出願公開された実開昭五三-一三五一二五号公開実用新案公報(乙四〇)、昭和五六年一二月二日に出願公開された実開昭五六-一六二一九六号公開実用新案公報(乙四三)、昭和五八年二月二五日に出願公開された実開昭五八-二九〇八九号公開実用新案公報(乙四五)には、一段式の物干し器であって集束盤の上端に吊下げ用フックを取り付けたものが示されている。したがって、一段式の物干し器であって集束盤の上端に吊下げ用フックを取り付けたもの(一段式の吊下げ式物干し器)は、昭和五〇年代に既にきわめてありふれた形態になっていたということができ、そして、このきわめてありふれた形態である一段式の吊下げ式物干し器において脚部を設けて一段式のスタンド式物干し器とした形態の意匠も、物干し杆を二段にして二段式の吊下げ式物干し器とした形態の意匠も、本件登録意匠の出願前に公然知られたものとなっていたものであり、吊下げ用フックにより吊り下げて使用される限り、物干し杆が一段であるか二段であるかによってその美感に顕著な差異があるとは認められず、二段式のスタンド式物干し器において、上位集束盤の上端に上に向けて吊下げ用フックが取り付けられているとの点は、本件登録意匠において需要者の注意を特に強く惹くということはできないから、被告意匠がこの点において本件登録意匠と一致するからといって、被告意匠が本件登録意匠と類似するということはできない。

(二) 一致点〈2〉の、下段物干し杆の先端部に上向きに「つ」の字形クリップが形成されているとの点について、原告は、本件登録意匠の特徴として看者に強い印象を与える旨主張する。

しかしながら、前記乙第四、第二九、第二〇号証には、二段式のスタンド式物干し器において下段物干し杆の先端部に上向きに「つ」の字形クリップが形成されているものが示されており、また、前記乙第三六、第三七、第三九号証、第四一号証の2ないし5、第四二、第四三号証には、一段式の吊下げ式物干し器の物干し杆の先端部に上向きに「つ」の字形クリップが形成されているものが示されていることが認められるから、下段物干し杆の先端部に上向きに「つ」の字形クリップが形成されているとの点は、本件登録意匠の出願前公知のありふれた形状にすぎず、到底、需要者に強い印象を与えるものということはできない。

(三) 一致点〈3〉の、上段物干し杆の長さは物干し器全体の高さの約六分の一であり(イ号意匠)、下段物干し杆は上段物干し杆より長いとの点は、需要者の注意を惹くものとはいえず、意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいことが明らかである。

4  次に、前記2に挙げた相違点について検討する。

(一) 被告意匠と本件登録意匠との相違点(1)の、上位集束盤の形状の差異は、物干し器全体に占める割合が上段物干し杆と比べて小さいから、意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいというべきである。

(二) 相違点(2)の、下位集束盤の形状等の差異については、そのうちロ号意匠では本件登録意匠とは異なって、下位集束盤がほぼ円筒形のストッパーにより上下位置可変に係止されているとの点は、下段物干し杆の上下位置を自由に設定できるという機能が形状に現れたものとして無視することはできないが、前記(一)同様、物干し器全体に占める割合が下段物干し杆と比べて小さいから、意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいというべきである。

(三) 相違点(3)の、吊下げ用フックの形状の差異については、前記のとおり二段式のスタンド式物干し器において上位集束盤の上端に上に向けて吊下げ用フックが取り付けられている形状は需要者の注意を特に強く惹くとはいえず、フック自体の形状は大差がなく、本件登録意匠における支柱の約六分の一の長さの首部も、支柱の延長とも見られるから、右相違点が意匠の類否判断に及ぼす影響はさほど大きくないというべきである。

(四) 相違点(4)の、上段物干し杆が、本件登録意匠では、細長い断面角形棒状で、本数が一二本であり、上位集束盤にやや上向き放射状に枢着されており、先端部寄りと根元部寄りに各一個のピンチ吊下げ用の小孔が穿設されているのに対し、被告意匠では、細長い断面「I」字形板状で、本数が四本であり、上位集束盤に直角交差状に水平に枢着されており、縦に長い楕円状のハンガー掛用孔が六個等間隔に穿設され、該孔と孔の間の杆下縁に扁平釣針状のフックが六個等間隔に設けられているという点については、そのうち、本件登録意匠において上段物干し杆を上位集束盤に枢着する「上向き」の角度は水平に近い小さいものであるので上段物干し杆の上位集束盤への枢着の仕方の差異が意匠の類否判断に及ぼす影響は小さく、また上段物干し杆の本数の差異が意匠の類否判断に及ぼす影響はさほど大きくないが、被告意匠においては本件登録意匠にはない縦に長い楕円状のハンガー掛用孔が六個等間隔に穿設され、併せて該孔と孔の間の下縁に扁平釣針状のフックが六個等間隔に設けられている点は、本件登録意匠に係る物干し器との機能上の差異が現わされたものとして、上段物干し杆自体の形状の差異と相まって、需要者に相当異なった印象を与えるものというべきである。

なお、本件登録意匠の上段物干し杆に穿設された孔は、ハンガー掛用孔として使用することを予定されていないものであることは前記2説示のとおりである。

(五) 相違点(5)の、下段物干し杆の本数、形状の差異のうち、下位集束盤に枢着されているその上向きの角度の差異が意匠の類否判断に及ぼす影響は小さいが、本件登録意匠では上向き「つ」の字形クリップが形成されているのは杆の先端部だけであるのに対し、被告意匠では杆の先端部及び根元部の両方に上向き「つ」の字形クリップが形成されているという点については、前記3(二)説示のとおり、下段物干し杆の先端部に上向きに「つ」の字形クリップが形成されているとの点は本件登録意匠の出願前公知のありふれた形状にすぎず、本件登録意匠の下段物干し杆が広がっている形状のもたらす美感を花弁に譬えるといわば単なる花弁であるが、被告意匠では、物干し杆の根元部にも「つ」の字形クリップが形成されていることにより、根元部の「つ」の字形クリップの集合全体がいわば舌状花と管状花からなる向日葵の頭花における管状花を思わせる形状をしているから、本件登録意匠とは異なる美感を起こさせるものというべきである。しかも、需要者が二段式のスタンド式物干し器を見る場合、通常斜め上から見下ろすことになるから、下段物干し杆の根元部の「つ」の字形クリップの集合部分は非常に目に付きやすい部分といわなければならない。更に、被告意匠では、本件登録意匠とは異なり、下段物干し杆の先端部にピンチ吊下げ用のツメも形成されていることや、断面形状が角形の本件登録意匠に対し「I」字形(イ号意匠)又は「T」字形(ロ号意匠)であることも、需要者に本件登録意匠の下段物干し杆よりも形状が複雑であるという相当異なった印象を与えるものというべきである。

(六) 相違点(6)の、「脚部は、本件登録意匠では、支柱の半分以下の太さの丸棒状の四本のステーからなり、支柱との接合部に設けられた略半円状の四個の螺着板に下向き放射状に枢着されているのに対し、イ号意匠では、支柱と同じ太さの丸棒状の三本のステーからなり、支柱との接合部に設けられた三角稜状のカバーに下向き放射状に枢着されており、ロ号意匠では、支柱が貫通する上面が円錐状にややふくらんだ円盤状のカバーに枢着された、支柱よりやや細い丸棒状の三本のステーからなり、右カバーの下方において支柱が貫通するドーナツ状部分から三方に伸びるリンクを有し、右各リンクの他端は二股となっていて各ステーを把持するとともにステーに枢支され、ステーを連動させて開閉するとともにステーを補強するようになっている」との点、及び相違点(7)の、「脚部のステーは、本件登録意匠では、長さが上段物干し杆とほぼ同じで、高さが物干し器全体の高さの約八分の一であり、その放射状展開先端部の位置が上段物干し杆の放射状展開先端部の位置よりもやや内側にあるのに対し、イ号意匠では、長さが上段物干し杆の約二倍で、高さが物干し器全体の高さの約四分の一であり、その放射状展開先端部の位置が上段物干し杆及び下段物干し杆の放射状展開先端部の位置よりもやや外側にあり、ロ号意匠では、長さが上段物干し杆の約一・五倍で、高さが物干し器全体の高さの約六分の一であり、その放射状展開先端部の位置が下段物干し杆の放射状展開先端部の位置とほぼ同じである」との点については、本件登録意匠及び被告意匠に係る二段式のスタンド式物干し器においては、その構造上相当の高さになり、しかも水分を含んだ洗濯物の荷重が加わる物干し器全体を脚部のみによって支えるものであるから、それが倒れにくく安定して立つものであるかどうかは需要者の注意を強く惹くものというべきところ、本件登録意匠では、脚部のステーは、支柱の半分以下の太さで、長さが物干し器全体の高さの約六分の一の上段物干し杆とほぼ同じで、高さが物干し器全体の高さの約八分の一であり、その放射状展開先端部の位置が(下段物干し杆より短い)上段物干し杆の放射状展開先端部の位置よりもやや内側にあるため、需要者に対し上方が大きく下方が小さいという不安定な印象を与えるのに対し、イ号意匠では、脚部のステーは、支柱と同じ太さで、長さが物干し器全体の高さの約六分の一の上段物干し杆の約二倍で、高さが物干し器全体の高さの約四分の一であり、その放射状展開先端部の位置が(上段物干し杆より長い)下段物干し杆の放射状展開先端部の位置よりもやや外側にあり、ロ号意匠では、脚部のステーは、支柱よりやや細いが、上面が円錐状にややふくらんだ円盤状のカバー・その下方のドーナツ状部分・リンクによって補強された形状になっており、長さが物干し器全体の高さの約五分の一の上段物干し杆の約一・五倍で、高さが物干し器全体の高さの約六分の一であり、その放射状展開先端部の位置が(上段物干し杆より長い)下段物干し杆の放射状展開先端部の位置とほぼ同じであるため、いずれもステーの形状自体及びステーの放射状展開先端部で囲まれた面積の広さにより物干し器全体をしっかりと支えているという安定した印象を与えるということができ、被告意匠と本件登録意匠が二段式のスタンド式物干し器として需要者に与える安定感には格段の差があるといわなければならない。

三  争点1についての結論

以上によれば、被告意匠は、全体の基本的形状において本件登録意匠と一致するからといって直ちに本件登録意匠に類似するということはできず、上段物干し杆部、下段物干し杆部及び脚部のそれぞれの部位における具体的形状において、前記二2の〈1〉ないし〈3〉の一致点で本件登録意匠と一致するものの、これらは本件登録意匠との類否判断に大きな影響を及ぼすものとはいえず、同(1)ないし(7)の相違点、とりわけ(5)、(6)及び(7)の相違点が本件登録意匠との類否判断に与える影響は右一致点が及ぼす影響を凌駕して、被告意匠と本件登録意匠の全体としての美感を異ならしめるものであるから、被告意匠は本件登録意匠に類似しないものといわなければならない。前記第二の一2のとおり本件意匠権には本件類似意匠一及び本件類似意匠二の意匠権が合体しているところ、類似意匠の制度は本意匠が本来観念的に有しているこれに類似する意匠の範囲を明確にするため予め本意匠に類似する意匠を登録しておくものであり、したがって、本件類似意匠一又は本件類似意匠二と実質的に同一の意匠は本件登録意匠の類似の範囲内にあるということができるが、前記一の1(二)、(三)認定の本件類似意匠一、本件類似意匠二の構成と同2(一)、(二)認定のイ号意匠、ロ号意匠の構成とを対比すれば、被告意匠が本件類似意匠一又は本件類似意匠二と実質的に同一といえないことは明らかであるから、本件類似意匠一及び本件類似意匠二の存在は、右判断を何ら左右するものではない。以上に反する原告の主張は採用することができない。

第五  結語

よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないことに帰するから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)

イ号物件目録(一)

物品名 物干し器

形状の説明 別紙イ号図面(一)に示すとおり、支柱を細長いパイプとし、全体の高さの下方寄り(略五ないし六分の一弱)の部位から、脚柱三本を三方へ等間隔に開脚して、床に設置できるようにしたものであって、各脚柱の上部は、支柱の下端に周設した周側を水掻きのある水鳥の趾形状とするテトラポット状接続具に挟持され、支柱上部の物干し杆は、断面が「I」字状の細幅板状で、等間隔に楕円形孔が六個穿設され、楕円形孔の中間に舌状片のフックが傾斜して垂下し、その各フックには一個ずつピンチが吊り下げられ、その物干し杆は支柱上部に設けた円形集束盤を介して、水平に十文字状に四本取り付けられており、円形集束盤の上面中央には、足の短い疑問符状のフックが載置され、支柱上部の円形集束盤の下側の左右には角状突起が一本ずつ設けられ、支柱中央の下段の物干し杆は、断面が「I」字状の細長い棒状で、その先端及び集束盤に「つ」の字形クリップが形成されて洗濯物を挟持するようにされ、先端部底面から外方へ「し」の字状のツメが突出し、集束盤を介して、先端側をほんの少し上げて放射状に二〇本取り付けたスタンド式物干し器。

イ号図面(一)

〈省略〉

イ号物件目録(二)

物品名 物干し器

形状の説明 別紙イ号図面(二)及び各写真に示すとおり。

全体の基本的な構成は、スタンド式の上下二段の物干し杆からなる物干し器の形態をなしている。

上段物干し杆は、四本の断面「I」型の型材からなり、直角交差状に配設され、中央の取付盤からそれぞれ水平に延伸し、右各物干し杆には、縦に長い楕円状のハンガー掛用孔が六個等間隔に開いており、該孔と孔の間の杆下縁に扁平釣針状のフックが六個等間隔に設けられ、中央の物干し杆取付盤は、支柱から取り外し可能に形成され、取付盤上部に円弧状の鈎が設けられて、物掛けに吊り下げられるようになっており、取付盤下部には、支柱との嵌着筒が連続し、上方に向かって一対の「L」字形突起が右嵌着筒に設けられた形態をなしている。

また、下段物干し杆は、二〇本の断面「エ」型の型材からなり、中央の取付盤からそれぞれ放射状に水平に延伸し、右各物干し杆には、先端部にピンチを掛けるツメがあり、両端は洗濯物を挟めるようクリップ状となっており、中央の物干し杆取付盤には、凹凸模様が刻まれ、右物干し杆端部のクリップ状部の集合と相まって、独特の豪華さと気品を看者をして印象づける形態をなしている。

脚部は、三脚で、支柱同様のパイプ状からなり、支柱との接合部には、特異な三角稜状のカバーが設けられ、安定感のある形態をなしている。

イ号図面(二)

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

イ号物件

〈省略〉

〈省略〉

ロ号物件目録(一)

物品名 物干し器

形状の説明 別紙ロ号図面(一)に示すとおり、支柱を細長いパイプとし、全体の高さの下方寄り(略五ないし六分の一弱)の部位から、脚柱三本を三方へ等間隔に開脚して、床に設置できるようにしたものであって、各脚柱の上部は、円筒外周の三箇所に設けられたコの字状の接続具に支持され、接続具上方には逆漏斗状のカバーが支柱を通して覆っており、支柱下端部と各脚柱とは、中央で連結する杆によって保持され、支柱上部の物干し杆は、断面が「I」字状の細幅板状で、等間隔に楕円形孔が六個穿設され、楕円形孔の中間に舌状片のフックが傾斜して垂下し、その各フックには一個ずつピンチが吊り下げられ、その物干し杆は支柱上部に設けた円形集束盤を介して、水平に十文字状に四本取り付けられており、円形集束盤の上面中央には、足の短い疑問符状のフックが載置され、支柱上部の円形集束盤の下側の左右には角状突起が一本ずつ設けられ、支柱中央の下段の物干し杆は、断面が「I」字状の細長い棒状で、その先端及び集束盤に「つ」の字形クリップが形成されて洗濯物を挟持するようにされ、先端部底面から外方へ「し」の字状のツメが突出し、集束盤を介して、先端側をほんの少し上げて放射状に二〇本取り付けたスタンド式物干し器。

ロ号図面(一)

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ロ号物件目録(二)

物品名 物干し器

形状の説明 全体の基本的な構成は、スタンド式の上下二段の物干し杆からなる物干し器の形態をなしている。

上段物干し杆は、四本の断面「I」型の型材からなり、直角交差状に配設され、中央の取付盤からそれぞれ水平に延伸し、右各物干し杆には、縦に長い楕円状のハンガー掛用孔が六個等間隔に開いており、該孔と孔の間の杆下縁に扁平釣針状のフックが六個等間隔に設けられ、中央の物干し杆取付盤は、支柱から取り外し可能に形成され、取付盤上部に円弧状の鈎が設けられて、物掛けに吊り下げられるようになつており、取付盤下部には、支柱との嵌着筒が連続し、上方に向かって一対の「L」字形突起が右嵌着筒に設けられた形態をなしている。

また、下段物干し杆は、二四本の断面「T」型の型材からなり、中央の取付盤からそれぞれ放射状に水平に延伸し、右各物干し杆には、先端部にピンチを掛けるツメがあり、両端は洗濯物を挟めるようクリップ状となった形態をなしている。

脚部は、三脚で、中央がドーナツ状部で中央から三方に伸びるリンクを有し、右中央のドーナツ状部は支柱を貫通させ、三方に伸びたリンクの各他端は三脚の各脚と連結し、脚部を連動して開閉するとともに各脚部を補強するようになつており、三脚の集合部には富士山状のカバーが設けられた形態をなしている。

ロ号図面(二)

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ロ号物件

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日本国特許庁

昭和63年(1988)5月25日発行 意匠公報(S)

C3-72A

733518 意願 昭60-9919 出願 昭60(1985)3月12日

登録 昭63(1988)2月9日

創作者 岡田孝博 大阪府守口市大日町3丁目137番地 株式会社 久宝プラスチツク製作所内

意匠権者 株式会社久宝プラスチツク製作所 大阪府守口市大日町3丁目137番地

代理人 弁理士 中村恒久

審査官 鍋田和宣

意匠に係る物品 物干し器

説明 背面図は正面図と対称にあらわれる。

〈省略〉

〈省略〉

日本国特許庁

昭和64年(1989)2月21日発行 意匠公報(S)

C3-72A類似

733518の類似1 意願 昭61-48812 出願 昭61(1986)12月8日

登録 昭63(1988)11月15日

創作者 岡田孝博 大阪府守口市大日町3丁目137番地 株式会社久宝プラスチツク製作所内

意匠権者 株式会社久宝プラスチツク製作所 大阪府守口市大日町3丁目137番地

代理人 弁理士 中村恒久

審査官 鍋田和宣

意匠に係る物品 物干し器具

説明 本物品は、使用状態を示す参考図の如く、下側のスタンドAと上側の本体Bとからなり、通常はスタンドAを用いるが、本体Bのフクツ1を竿2等に掛けるときには、本体Bの取手3をスタンドAの支柱4から抜き出す。また、上段の物干し器Cと下段の物干し器Dはそれぞれクリップ5、6を緩めて上下すれば本体支柱7にそつて移動できる。背面図は正面図と対称にあらわれる。

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類似意匠登録願(意願平6-28721)添付の図面(手続補正書による補正を含む)

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意匠公報

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意匠公報

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